ワイン熟成において「時間」と「環境」は欠かせない要素です。
スペイン・バスク地方のワイナリー Crusoe Treasure(クルーソー・トレジャー) は、世界で初めて人工リーフを利用した海底セラーを構築し、実験と商品化を同時に進めてきました。
そのセラーは 海底約20メートルの深さに設置され、干満差が大きいプレンツィア湾に位置します。特筆すべきは、潮の満ち引きによって約4メートルの干満差があり、6時間ごとに水圧が変化するという点です。この環境が、通常の地上熟成にはない独自の効果をもたらしています。
地上熟成の環境要素
一般的な地上熟成は次のような環境で行われます。
- 温度:12〜16℃で一定
- 光:完全な暗闇
- 湿度:60〜80%
- 酸素:コルクを通じて微量に供給
- 振動:極めて少ない
これはいわば「静寂の熟成」。時間をかけてゆっくりとワインが進化していきます。
海底熟成の環境要素
対して、クルーソー・トレジャーの海底セラーはまったく異なる条件を備えています。
- 温度:海底20メートルでは年間を通じて12〜18℃と安定。自然環境によるわずかな変動はあるが、地上セラーと同様に理想的な低温が保たれる。
- 光:完全な暗闇。海水によって紫外線が遮断され、光による劣化を防止。
- 湿度:海中のため湿度は常に100%。コルクの乾燥リスクがなく、密閉性が安定する。
- 酸素:潮流や圧力変動の影響で、ナノ単位で酸素がワイン内部に供給される。
- 振動:波や潮流により常に微細な揺れが起きている。これは、ワイン内部の成分を均一化する働きを持つと考えられています。これは地上熟成にはない大きな特徴。プレンツィア湾は潮流が強く、常にボトルが微細に揺らされています。
- 水圧の変動:干満差4mにより、6時間ごとに水圧が変化。20mの水深でおよそ2気圧前後が基準ですが、潮の動きに伴い細かく上下します。この「圧力変化」が分子レベルの挙動に影響し、熟成を独特のものにしています。
| 項目 | 地上熟成 | 海底熟成(クルーソー・トレジャーの場合) |
|---|---|---|
| 温度 | 12〜16℃で一定 | 海底20mで12〜18℃と安定。干満差に伴うわずかな変動あり |
| 光 | 完全な暗闇 | 完全な暗闇。海水が紫外線を遮断 |
| 湿度 | 60〜80% | 常に100%。コルクの乾燥リスクなし |
| 酸素 | コルクを通じて微量に供給 | 潮流や圧力変動の影響で、ナノ単位で酸素がワイン内部に供給 |
| 振動 | 極めて少ない | 潮流や波による微細な揺れが常に発生 |
外観の特徴
さらに、プレンツィア湾の海底に半年から1年以上眠っていたボトルには、貝殻や海藻が付着します。これは単なる装飾ではなく「海に眠った証」であり、一本ごとに異なる姿をしています。熟成の科学的な違いに加え、視覚的なインパクトもまた、唯一無二の魅力となっています。
まとめ
クルーソー・トレジャーの海底熟成ワインは、
- 海底20mの安定環境と暗闇
- 干満差4mによる水圧の変化
- 潮流による絶え間ない微振動
という特殊条件が組み合わさることで、地上熟成にはない味わいと物語を生み出しています。
それは「科学と自然の力が融合した実験的な熟成法」であり、同時に「贈る人の記憶に残る体験価値」を持つワインなのです。